第62夜、異形のこと
高校の頃の話という。
彼がこたつで寝ていると、
あ。
体が動かなくなった。金縛りのようだ。
目を開けた。
あ。
見ると、右手が宙に伸ばされて、
その先を、別の手がつかんでいる。
あ。
男の手が。すーと宙から伸びて、つかんでいる。
手袋をはめているようでもあるが、はっきりとは
わからない。
彼は右手を引いてみた。
ずるっ。
何か、が引きずり出された。宙から、である。
右手をつかむ手の先からのびる手の根元に、
緑色の、ごつごつとした頭のモノがいた。人の形をしたモノが。
あ。
驚いた。驚いて、離してくれ、と思った。
離してくれ。
離せ。
誰にも言わないから。
パッ、と消えた。そのモノが何であったのかは今でも皆目見当もつかない、という。
(1990記)