第53夜、狐の玉
牛の玉の噺が出たから狐の玉も少々。篠田さンの「銀座百話」(昭和12年
岡倉書房)から。
銀座は「玉の井」食堂、白狐の庇護を受け繁盛とはモウとうに昔の噺。
ソウ何故玉の井と申しますかというとこのあたり妾どものとこに評判の高い
井戸がありまして、伝説に、最初この井戸を堀った時に、水が出ず光りもの
がする。ナンだろうと段々掘り下げてみますと”白狐”のお尻にある毛の玉が
出現たンだそうです。ソレを神棚へおそなえして縁義を祝いますと、井戸の水も
コンコンと(洒落てンじゃありませんよ)、清泉が湧いて大層評判になり「玉の井」
の屋号を受けたと申します、白木屋さんの白木観音(元日本橋東急屋上、現
浅草寺域内に転居)の水のように水脈がこのあたりにもあるものと見えます。
江戸の末期、手堅くこの「玉の井」を守っておりますおばあさん、或る日魚河岸
通いの芝の魚屋さんが「コー金に困ってるンだが、済まねエ、これを買って
くンねエ」ソレは芝明神の富クジの札なンです、「そンなものは」と堅気の婆さん
断っても日ごろご贔屓の魚屋さん、よくよく困ればこそ、トミ籤を売のだとも考え
お金を融通するつもりで買い取ったンだそうです。ソレがどうでしょう、当たり籤
だツたンです。千両の。