第三十六夜、ニオイのこと
(1994記)
つくばに住んでいたころ、出所の知れないニオイに悩まされることがあった。離れて今だそれとなく感じる出所の解からないニオイに気味の悪い思いをすることもなくはないが、つくばの長屋のあの薄暗い部屋での強烈なニオイに勝るものはない。
下に二つ挙げてみる。
一つ、獣のニオイ
・・・獣のくさーいニオイが、部屋の或る角から匂い出し、どうにもこうにもイヤだった。何も置いてない何も無い部屋の隅で、思い当たることもなかった。一ヶ月くらい続いた。部屋を引き払う寸前のことだった。
二つ、薔薇のニオイ
・・・やけに良い匂いのすることもあったが、この方がずっと気味が悪い。実際まずそんな特定のニオイが偶然湧き起こることは、「クサイ」ニオイよりもずっと可能性が少ない筈だ。ある日の昼間、押し入れから突然ニオイ出して、翌日まで続いた。
また日常的に「線香のニオイ」というのもあって、これは直ぐ来て直ぐ去るかんじだった。多分ふつうの人なら凄く怖いだろう。ところが私は線香のニオイが大好きなのだ。寺巡りをするとお土産にその寺の線香を買ってかえるくらいだ(寺ごとに違うのだ)。どんなに不自然な状況で発生していても、いいにおいだなとおもってそのまま忘れてしまうことが多いようだ。
香水のニオイというのもあって、上記の薔薇のニオイのように、変な処から急に匂い出したりする。しまっていた衣服についていたり、はては服ではなく身体そのものからしばらく匂っていることもある。元より理由はわからない(思い当たらない)ものだ。