第十八夜、海坊主または浜の住人

(1997記)

西表、中野浜。「A荘」のおばあが、夕方海辺で海草を洗っていると、いつもと違う気配がした。沖の方を見ると、足の立たぬはずの沖に、腰くらいまで水に浸かった男がすっと立っていて、空虚な静けさをもってこちらを見つめている。髪がカッと立っていて、この世ならぬ悪意が感じられ、恐れて浜を離れた。こんなことは90年来生まれて初めて、このとききりらしい。鳩間に向かうこの海を見ながら窓を全開にして寝た夜、知らぬ影が朝までつきまとったことがあったのを、ふと思い出した。今年は首の無い遺体が浮いた、という。

(後記、この年、珊瑚の白化が西表の隅々までを襲い、大きなダメージをあたえた。しかしながら、人家もある浜から歩いて行けるほど至便な位置にあるこの中野のリーフだけは、ほぼ完璧に珊瑚が残っているのだ・・・何故???)