怪物図録1
ア行 /
アクボウズ(灰坊主)
教訓に利用された妖怪は数多いが、これもそのひとつだ。「坊主」はモンスターを示す言葉で、これは灰お化けとでもいったほうがいいだろう。囲炉裏の灰の中にいて、子供が戯れに掘ると出て来るというのである。「灰を掘ると灰坊主が出て来るぞ!」とイタズラを戒めるのに使われた「虚獣」である。
アケローン
地獄を内在する獣。
トゥンダルは、人間でただ一度その姿を見た男である。彼はその罪ゆえに天使によって暫くの間アケローンの中にいることを強いられた。スウェッデンボリは「天国が人の形をするならば地獄は悪魔の姿をするに違いない」と言っている。さしずめその悪魔であろう。
アストミ族
インドの極東、ガンジスの源近くにいる。皮膚はざらざら、毛深く、綿で身を覆っている。口が無く、呼吸と香気だけで生きている。旅にはいろいろな匂いのする根や花、リンゴを持っていく。たえず匂いを嗅がねば死ぬ。だがちょっとでも匂いがきつくても参ってしまうのだ。
ア=バオ=ア=クー
インドの奇妙な生物。「勝利の塔」の一階にいて、登ろうとする者の肩にしがみつく。頂上まで連れていって貰おうとして。しかし、それはできない。寸前で落ち、再び一階で待つ。これを繰り返す。
アブドゥーとアネット
エジプトに伝わる伝説によれば、等身大の二尾の魚が、天空と地下を一日かけて駆け巡る太陽神の船の、露払いをするという。
アフリカの円形獣
十六世紀の下界アンブロワズ・パレによると、この陸棲の怪物は亀に似ているが、完全にシンメトリックで、円形の体、その背に十字形の印があって、その4つの先にそれぞれ一個の目と一個の耳がある。足は放射状に12本、体の向きを変えずに四方に進み、四方を見聞きできるのだ。
アリソンのヒツジ男
アメリカのカリフォルニアにあるアリソン渓谷では、大戦中の科学兵器工場跡に出没するヒツジ頭の男が有名である。この怪物は実験中につくり出された合成動物だという説もあるが・・・
アルゴス(”すべてを見るもの”)
アルゴスはゼウスの妃ヘーラーにつかえていた。ヘーラーはゼウスがイーオーという女に執心なのを知るとイーオーを牝牛にかえてしまった。さらにイーオーを監視させる為に、このアルゴスなるものを付けたのである。アルゴスは巨人である上に、目を100個持ち(百目という妖怪をご存知ですか?)、かわりばんこに眠らせることで常にどこかの目を開けておくことができた。ゼウスは困った挙げ句、ヘルメスを送る。ヘルメスは魔法の杖と牧笛で全ての目を眠らせると、首を断つ。この失態に怒ったヘーラーは、アルゴスの目を孔雀の尾に貼り付けた。以降ギリシャでは孔雀を「アルゴスの鳥」と呼ぶようになった。
アルプ
ドイツの「夢魔」。夜の妖精。全身毛に覆われ、人や動物の姿をしている。Elfの語源Alpそのものである。
イクテュオケンタウルス
古代ギリシアや中世ヨーロッパでは、母なる海には常に地上にいる生物に対応する生物が存在するという考えがひろまっていた。地上における「ケンタウルス」も、海中では”イクテュオケンタウルス”となるのだ。
一本ダタラ
熊野の山中に出、とにかく「恐ろしい」。もともと其の姿を見たものはなく、雪の上に残された幅一尺ほどの大きな足跡(”一”列なので一本足)のみで知られたモノのようである。ムコウの「悪魔の蹄跡」に通じるようで面白い。ダタラとはダイダラ(デイダラ)と同じ、巨人、大きな人という意味である(鞴を片足で踏む動作から”タタラ場”と関係があるとする説もある)。
大台ケ原では今でも次のような伝説を伝える。
「12月20日だけは決して伯母峰峠をこすな。丹勢上人の封じた「一本ダタラ」が1年でこの日だけ牛石の下から脱けて人を襲い、血を吸い取る。」
鉄砲の名人、射場兵庫がしとめた巨大な猪が化けて出たともいうが、定かではない。
或る意味厳冬に峠を越すのを戒める教訓妖怪だったともいえる。
(このへんの文献(参考文献表参照)は宮崎駿さんの「もののけ姫」でも参照されているようだ)
イデモチ
”主(ヌシ)”の一つ。彼は熊本県球磨郡にある、とある淵の主である。彼は腹に吸盤を持ち、それで人を取り殺す。いわゆる妖怪化したヌシの一例であろう、とは故今野圓輔氏の弁。
ヴェーダーラ(起屍鬼)
このキメラはインドの屍鬼のひとつ。人肉を食うが攻撃的ではない。唯、死体を操ることができる。人間が其の能力を利用する為には、人肉を供物として供えねばならない。姿は象を初めとするいくつかの動物の組み合わせとして確定されているが、原形はおそらく目にみえない悪霊のようなものだったのだろう。日本の妖怪にも似たようなものがいる。また、利用できるあたり、ブードゥーのゾンビ操りに似たようでもある。
この幽鬼は「毘陀羅」ともいい、これを使役し呪殺することを「毘陀羅法」という。ビダラの漢訳即ち「起屍鬼」である。