わかもとの家

芝増上寺大門脇になぜか「わかもと」本舗がある。こんな寺町になぜ、と観相家の松井桂陰、「手狭だろう」「面白い話があるんだよ」と事務所員、「創業の長尾氏がここで製薬を始めた時は貧乏のどん底だったというさ、だけれど今や大店、山内というのも縁起だっていうんで引っ越そうとしたら、住職がね、」「ほう」「伊東胡蝶蘭を見なさい、その後は不動銀行の牧野先生だ。ここに入った者で繁盛しなかった例はない。今出ていくのは勿体ない、てね」大資産を築いた今も狭い事務所を構えているのはそのためだ、と。〜田中貢太郎「日本怪談実話」より512文字編