降った墨

狐落としをした晩、住職と僧と旅人でトランプをして遊んだ。しかし住職は飽きて部屋に帰ろうとした。

誰もがほほを切る風を感じた。

ばっと、机上に広げ放置されていた経文の上に、たしかに、墨汁が飛んだ。

どこから来たでもなく、墨が跡をつけた。住職は

「師匠かや」

住職の師匠である高僧は名筆で知られていた。住職は「普通は気配や音くらいしか現れないものだのに、跡をのこすとは稀なことだ」と語った。(「幽霊・妖怪考」祐川法憧より抜粋編)

〜南部の人は案外ドライである。結構「見えない、見えるわけないもの」と考えている人が多いから、最後のような言説が出るわけです。