第93夜、牛鬼ナル物

出雲に「牛鬼」なる怪事有り。

山間の、谷川が流れ上に橋が架けられているような場所で、雨降り続き湿気があるとき。橋に近づくと何やらひらひら舞うように飛びまわる無数の光り物がある。

橋を渡ってはいけない。そのまま渡ろうとすると、蝶のように飛んでいた光りが体にまとわりついて、しまいにはしっかと取り付いてしまう。衣服には銀箔を押したようになる。手で払おうとも払えるものではない。

土地の人、「牛鬼」に遭ったならば、囲炉裏に薪を多くくべて、体を炙ると良い、と。早速そのようにしたところ、全てが、すっと引けるように消えてしまった、誠に妖しき物なり、と鵜飼半左衛門なる出雲の人が語ったという。

〜「大江戸奇怪草子」花房孝典編著、三五館刊を参照、原典、和田烏江著「異説まちまち」

・・・牛鬼とはよくいわれるように牛の化け物というわけではなく、わけのわからないもの、あやかしのたぐいをそう呼んだものであるらしい。