第八夜、人魂の事

ある人が葛西に釣りをしに出かけたが、釣り竿その他へおびただしい数の蚋が集まってたまらなかった。そばにいた老人が言うには、このあたりに人魂が落ちたのだろう、だから蚋が多く集まるのだ、と。それを聞いたまたまたある人、たまたま暗いうちに釣りをしていたときに、人魂が飛び来るのに出くわした。そして近くの草叢の中に落ちた。どんなものが落ちたのかしら、と其の場所へ行き草ぐさを掻き分けて見ると、泡立ったものがあり、臭気もするが、やがて蚋と化して飛び散ってしまった。「老人の言うことに偽りはなかった」と後に語ったという。江戸のころのはなし。