第83夜、くすぐり様

窓をあけっぱなしで夜更かしをした。室内の空気が二時近くになって急に重苦しくなった。「何か」
が室内に入ってきたようなのだ。
「早く寝てしまえばよかった」
このような時は寝ようとすると決まって金縛りに遭う。果たしてそのときも寝入りばなに、あの
「独特の」状態に陥った。「仰向け」でいると「最中」に何か見えたり何かされることが多いので、
下を向いて寝たのだが、いつのまにか横を向いていて、腹の真ん中を、何かがくすぐる。へそのまわ
りを、男の手らしき厳つい手が、指先を細かく動かして、くすぐっているのだ。おかしい。何とも
気味悪く、かと言って恐ろしくは無い妙な感じである。くすぐったい以前に、やはり気持ち悪く、
目を開いて何か見えるのは嫌だから、目は開かなかったが、くすぐったくてたまらず、力を振り絞
って手を伸ばし、テレビのスイッチを入れ、ボリュームを上げて追い払おうとする。それでも収まら
ないから電灯のスイッチも入れると、
パッ、と消えた。
しかし室内のフンイキはあいかわらず重苦しい。その日は、フンイキが元に戻るまで起きていようと
思ったが、いつのまにか、電灯やテレビをつけっぱなしで寝入っていた。
・・・1992年8月16日。盆明けの晩であった。