第82夜、屍鬼のこと

京は七条河原の墓所に、化物が居るとのうわさがたった。それを聞きつけて、若者どもが寄り合い、
金を賭けて肝試しをすることにした。一人が例の墓所へ夜半時分に行き、杭を打って、紙を付けて
帰ろうとすると、
年の頃80ばかりと思われる老人、白髪を頂き身の丈8尺くらいの者が、顔は夕顔の如く白く
やつれ、てのひらにはぱっちりと目がひとつ付いて、前歯二本を剥き出しにして追いかけてくる。
男、肝魂も失せて、近くの寺に逃げ込み、僧に助けを求めた。僧は長持を開き、中に隠れさせた。
するとくだんの化物、この寺に追いかけて来て、つくづくと見わたすと帰っていったと見える。
しかし例の長持のあたりで、何とも知れず、犬の骨のようなものをかじり食べるような音がして
いた。僧は怖ろしく思い隠れていたが、もはや化物も帰っただろう、男を長持から出そうと蓋を
あけると、例の男は骨を抜かれ皮ばかりになっていたということだ。1991