第78夜、狸三題

徳島県美馬郡半田町にある坊主橋。その際の藪のなかに、坊主狸が棲む。夜半に人が通ると、
いつのまにか頭を坊主のように剃られてしまう。そこで、橋の名も「坊主橋」という。
脇町大字脇町では、隣村の新町へ行く途中の、高須というさみしいところに、昔、衝立(つい
たて)狸というものがいた。夜更けに通ると、道の真中に大きな衝立が立って進むことができ
ない。大抵の人はびっくりして引き返す。豪胆な者は丹田に力を込めて、構わずに通る。すると
訳無く通れるが、一般の人はひどく恐れた。そこで近隣の人々が集まって、ここで光明真言を
四万八千遍唱えて、そのしるしの高さ一丈もある板石を立てて狸を封じ込んだ。その後は何も
無い。三島村の舞中島には、昔、蚊帳吊り狸というのがいた。夜更けに、道中に蚊帳を吊るして
あるのに出くわす。まくってみるとまた蚊帳。いくらまくっても、蚊帳。いくら戻っても、蚊帳
がつづく。夜明けまでうろうろしなくてはならない。が、よく心を落ち着けて、丹田に力を入れ
て、まくって進むとちょうど三十六枚目に向こうに出られるという。1990