第76夜、テントを叩く影

そうだね、あの映画はたしかにリアルだった。

ブレアウィッチプロジェクトのことだ。2も制作されているが、全てが暗示的に作られており、

原因が今一つはっきりとしないところがいかにもリアルなのだ。原因を探らない主義の私に

も興味深い映画だった。

そう、キャンプの夜の不安な思い出。

中学1年生のころ、尾瀬にキャンプに出かけた。

尾瀬のテント場でテントをはって、行程自体はたいしたことがなく、割合と元気だった。

ある晩のこと。ふと目を覚ました。

がさり、がさり。

周囲の草ぐさを踏みしめる音。無論灯りなど無い真っ暗闇の中でのことである。

誰かキジ打ちにでもいったのだろうか(注:山用語でトイレのこと)。

でも、足跡は遠ざかる気配も近づく気配も無い。しかも、私の頭の上から左側、そして足、

さらに右側の出口付近、また頭の上・・・ぐるぐると、このテントの周りを廻っているのだ。

恐怖が全身を駆け巡った。

薄ら寒い高原の夜、月の無い晩。

真っ暗ななか、何者かがこのテントを狙っている。

何を狙っているのか知れないが。

がたがた歯の根もあわないほどに震えシュラフにくるまる私は、遂に意を決して、

ヘッドランプを取り上げると、音が足元方向に向かった時をみはからい、

スイッチをひねった。

ぱっと明るく照らされたテントの壁面に、大きな人影が映し出され、次の瞬間

どさん!

と倒れ込んだ。目前に迫る布地、「人の顔型」!

思わずライトを消す。それ以上「何かが見える」のを防ぐために。

パニックだった。丸まって震えながら、耳を塞ぐしかなかった。

・・・

・・・周囲は皆寝ている。そして気が付くと足音も消えていた。

ライトをつけると、壁面は何事もなかったように平らかだった。

朝までまんじりともできなかった。

昨夜誰かがそんなことをしたのだろうか、と聞いてまわっても知らないとの

声ばかり、私たち以外の人間がイタズラでやったとも思えず、

気味の悪い想いを残して、私はテント場を去った。

寝不足の頭を抱えながら。