第67話、人体発火のこと

先日英国のテレビ番組が紹介されていて、面白かったのでその骨子をここに記しておく。
ごく稀に、人が一人で居るときに起きる怪事として、「両足首だけ」を残して身体が
「燃え尽きて」しまうことがある。「人体発火現象」と称されるものだ。殺人説、オカルト
現象説が流布する中、決定的な説として次のような説が提示された。
焼け焦げて骨すら跡形もなく黒い炭となり、ただ足首のみが無傷で燃え残る。ほぼ密閉
された室内は煤の跡以外はほとんど被害を受けていない。人体にごく近い位置にあった
カーテンすら焼け跡がない。只、プラスティックだけが奇妙なねじれを生じている。これは
人体が突如として一気に燃え尽きたことを示すものではない。長時間かけてゆっくりと燃え
ていったことを示しているのである。火の影響が人体以外にほとんど見られないのは、人体
内部の脂が丁度ろうそくの蝋のような役目をはたし、小さな炎のままで内部から焼いていった
ことを想定させる。時間さえかければ、骨までも焼き尽くすことは可能だし、足首が残るのは
その手前まででやっと火勢が尽きたと考えればよい。これは実験で、脂を巻いた骨を端から
焼いていったとき、決まって末端が残る・・・しかもまったく無傷で・・・ことから証明
された。何らかのきっかけ・・・事件現場ではストーブやガスコンロといった火を使う器具が
決まって見つかっている・・・で体の一部に火がつき、元火の方は消した(消えた)ものの、
体についた火のせいで気を失ってしまう。失神した人体を、少量の火がゆっくりと、ろうそく
がとける如く、焼き尽くしてゆく。室内はその「時間」の長さの間に高温状態になる。プラス
ティック製品のねじれは、その高温のせいであった。
人体発火現象は、前世紀においては深酒のために体内のアルコールが火を誘い、骨までも焼き
つくすのだとされていた。しかし、今や、人体発火現象は、いくつかの偶然の重なった惨事で
あると説明されるようになった。
オカルト的なミステリーは科学的な検証によって解明されたのである・・・

・・・が、その”解答”というのも、何ともはや、猟奇的で、いかにもオカルト的だ。ゆっくり
と燃え、死んでゆく人間。イギリスという国は、これだから面白く、怖い。
(1991記)