第58夜、座師

墓場をあるいていると、墓石に座ってる”モノ”が見えることがある。

煙管をふかして、ぽかんとしている老人、

泣きじゃくる、でも泣き声の一切きこえてこない子供、

落ち着きなく、そわそわしている壮年の男。

そういって彼は一息ついた。

こんな話し信じらんないよな。

墓参りに行ったんだ。

中学校の先生だよ。

丁度新盆だってんで、たくさん人が集まっていたんだ。

その中に、ひときわ騒がしい男がいる。

なんだか挨拶のような雑談のような、でも要領を得ないような話しを

しているんだ。でもどこかできいたことのある声なんだよ。

頭と頭の間から覗いたさ。

そんな男なんていやしない。

坊主が金ぴかの袈裟着て唸ってたよ。

で、そこで旧友なんかと再会したりして、折角だからと法事につきあったんだけど、そのうちどこかで一杯やろうなんてことになって。

線香の一本も立ててから墓場を出た。

夕方かな。そいつはこれから仕事だなんていってサッサと帰りやがって、

俺はふと、誰もいなくなった墓場に、先生をたずねてみようと思った。

さっきは騒々しくてたまらなかったけど、結構迷惑かけて、でも最後には就職の世話までしてくれたんだ・・・もっともスグやめて東京にでてきちまったんだけどさ。

だから、もう一回ちゃんとお参りしておこうと思ったんだ。

かあ、かあと烏が鳴いていた。

盆飾りが方々に散らばって、マツリの後、ってかんじかな。

その中に、真新しい墓石がある。センセイのだ。

その上に、人が、正座しているンだ。

・・・そう、そのセンセイなんだよ。先生。

びしっと背筋を伸ばして、

黒縁のメガネをかけて、七三に分けてさ。

まさかとは思ったけど、

近寄るに連れ、透き通った身体のむこうに羽ばたく烏が、これは

アレ

なんだと実感させた。

でも、真ん前に立つと、焦点の定まらないような目で、でも、にっこりと笑ったんだよ。それで、ゆっくりうなづいて、消えたんだ。

オイ、信じてくれよな。

涙が出てきたよ。

センセイ、俺のことちゃんと憶えてたんだって。

そんで、気付いたんだ。先生の声を思い出したんだ。

昼間、何か大声で喋っていた声、先生だったんだよ。

それにしても、、、

”アレ”はなんだかわからないね。残像みたいなもんかもしれないけど、

残像は笑うんだろうか?

喋るんだろうか・・・

(これは私もわからなくはない。墓石に立つ兵隊さん、焼き場の煙突に乗った女の首なんぞも”見た”ことがある。)