第55夜、ふしぎな花

誰も供えた憶えの無い花が供えられている。

毎日だというのだ。

そのカーブで昔、走り屋が死んだらしいとは聞いていた。

でも、昔の話しだ。

しかも花のことは最近唐突に、らしい。

ある暇人が、一日中ずっとそのカーブを見ていようと思った。

ずっと立ってて、まあ小便くらいならそのへんですませた。

花が供えられる瞬間を捉えようとしたのだ。

街灯もあるし大きなライトを持ってきていて、夜が来て、寒い中

一人で立っていたというから根性がある。

・・・でも夜半。ふとうとうとしかかった、そのとき。

「ぎゃーっ」

どかん、

と音がして、はっと目を上げると、

ライトのあかりの中に・・・

何本もの「白菊」が、立てかけられていた。

今、まさに今供えられたような生きの良い花だったそうだ。

切り口も瑞々しく、投げ捨てると車に飛び乗り、

泡食って逃げ出した。それきり。

・・・

この現象は、ひと月くらいでだしぬけにおわったという。

理由のわからぬ不可解さが、如何にも異界的ではある。