第五夜、化物屋敷のこと、その五

奥州小松(山形)の小松城、留守居番をする侍が居た。その妻ある晩雪隠へ向かうところ、むこうから、歯黒黒々と付けた女の首がひとつ、飛び来て、妻を見て、にこにこと笑う。妻は恐ろしがったが、このような物にニラみ負けると悪いと聞いていたので、目を見開き、睨み付けていると、かの首睨み負けて、次第々々に遠ざかり、遂に消え失せてしまった、と。妻は嬉しく思い、厠から出て寝間に返ったところ灯りが消えていた。次の間へ行ったが、そこもともし火が消え暗い。妻、気をとり失って倒れ臥した。夫、他から帰って妻を呼ぶが、気絶して音もたてない。見つけて後人々驚き気付けなどを与えたところ、ようよう息を吹き返した。事の様子を尋ねたところ、上のようなこと。その後かの厠も場所を変え立て直したところ、それ以上の変事は起こらなかった、という。