第四十七夜、無顎鬼のこと

機織り職人の某が、月明かりの下を、荷物を背負って帰るその帰り道でのこと。彼の地化け物が多く出るそうで、私は臆病だから、一緒に歩いて欲しいと、一人の男が頼んできた。承諾して同行するその途中、男は、もし化け物が出たらどうするか、と問うてくる。機の軸で打つ。それでも駄目なら鎌で斬り殺すと答えると、その男、ビクビクしながらついてくる。そして、しばらく行くと、男、

「幽霊には顎が無い、というが、ためしにわしの顔を見なされ」

と言って来る。

さては化け物か。

鎌を取って振り向くと、顎と胸が接し、両眼、煌煌と睨む。そして、すっ、と消えた。

宋代の書にある話。中国では昔、口から下の顎の無い幽霊のことを、「無顎鬼」といって、怖れた。日本では足が無いが、顎が無いのは異様である。