第四夜、化物屋敷のこと、その四

京都の山奥の寺。高校受験を控えた中学生三人が、勉強疲れの憂さを晴らしに奈良からやってきた。なぜそこを選らんだのかといえば、旅賃・泊賃が安いという唯それだけ。朝六時に家を発ち、着いたのが夕方。三人ともひどく疲れ、夕食もとらず寝る。部屋は住職に案内された十八畳敷の大部屋。三人は固まるようにして眠りについた。午前三時ごろ、ひとりが目を覚ます。便所に行きたいが怖い。そこでもうひとりを起こし、二人で部屋を出た。便所まで百メートルくらい、其の途中、付き合わされた方は、幾度と無く猫ほどの小動物が素早く足元を走り抜けたように感じ、そのたびに背筋に寒いものが走った。が、もう一人は便所を堪えて気付かない様子。便所に着き、一人は用を足す後ろでじっと待つ。ところが用を足してもその御仁、動こうともしない。不審に思ったもう一人、早く戻ろうと声をかける。すると用を足した方、声を急に潜めて、

「誰かに見られている」

驚いたのは待っている方、そう言われてみればという気にもなる。胸に言いようの無い恐怖感が募って来る。背中のうしろに何か居るような気がして来る。二人は暫く突っ立っていたが、意を決し、掛け声と共に一緒に振り返ることにする。

「サン、ニイ、イチ、ゼロッ」

・・・そこには、赤いちゃんちゃんこを着た男と、その手を握って泣いている若い女がいて、じっとこちらを睨み居る。其の後ろには一人の幼な子が、

血だらけの飯を口に入れている。

ぎゃー、と二人仲良く便所を飛び出し、部屋に駆け戻ると、残る一人も叩き起こして、かくかくしかじか事の事情を説明する。そうして三人、住職の部屋に行くことにして、再び廊下に出る。が、住職は部屋にいない。どこにも見当たらない。恐怖は益々つのってくる。幽霊の居る寺なんてもう一分たりとも居たくはない、ということで、三人は急ぎ荷物を纏めると、先を争い寺を出る。暗い山道転げるように走り行き、ようよう駅に着いたのは朝の五時。とりあえず荷をおろし、ハタと気が付く。住職は寺には住まず別宅から通っているんじゃないか。電話帳を見る。やはり、と早朝の電話、ようやく出た住職はしばし黙し、やがて口をひらく。

十年前のこと。当時の住職が用事で少しばかり寺を留守にしていたとき、強盗が押し入り、奥さんと幼児を惨殺。用事を終えた住職が帰り来ると、そこには息絶えた妻子が倒れていた。

食事中であったのだろう、茶碗や箸が血まみれとなって散っている。住職は忘我のままに首を吊ってしまった。その恨みが残っていたのだろう。三人は恐怖のうちに寺を後にした。