第二十三夜、ハンドルを握る手

用事があり昼間に社外を歩いた日のこと。道路脇に並ぶ路駐車の列のそばを足早に歩く。ふとある車・・・白い中古車・・・が目に留まった。人が乗っているような気がする。だが人影はない。一寸路測に停めてすぐ去るような車には、人が乗っているような気配を感じることがある。エンジンも止まっているが確実に人気(ヒトケ)がした。別にそれで興味をひかれたわけでもないが、通り際それとなく車内を覗く。

後部座席にぬいぐるみが二、三個転がっている。運転席に目を移すと・・・やはりどうも、人が乗っているような気がしてならない。視界には黒光りするシートとハンドルしか入らない。

いや、「人」がいる。

背中がチクっと痛む。例の感覚だ。しかし座席に、ではない・・・それはハンドルの奥の「暗がり」に感じられた。横目にフロントをすり抜けると、とんでもないものが見えた。

ハンドルの「軸」を、しっかりと握る手。

その手首は、座席でなく、ブレーキやアクセルのある、足元の闇から伸びているようなのだ。否、伸びているといっても、はっきりと見えたのはか細い手首だけで、その「根元」がシートでなく計器類の方向にあること以外は、どうなっていたか定かじゃない。見るなり恐怖で、逃げるように去ってしまったから。

あの車は、事故を起こすのではないか?

ハンドルを「取られ」て・・・

(1993/7/11記)