第十七夜、向こうへ行け

(1993記)

最近気配は感じるものの決定的なことがなく、平穏に大阪出張の日々を過ごしていたが、ホテルでのある晩、久方ぶりに例の、寝入りばなに起きる、金縛りがあった。疲れが溜まっていたせいか、とも思ったが、何か異様な気配を感じたのと、昔ツクバでよくあった、「現実と微妙にズレた次元」に連れて行かれるような感覚、「舌打ち」(舌はさすがに動く為、その音で或る程度”覚醒”あるいは”撃退”できる)などして無理矢理「悪夢の次元」から目を覚まそうとせざるをえない、といった状況、つまり、結構「強い」体験だったので、気に掛かっていた。

横を向いて寝ていて、肩をガクガク揺り動かされる、という程度の現象だったのだが、近頃「肩甲骨センサー」(私は何かしら「凶凶しいもモノ」が近づくと、肩甲骨の下から中に手を差し入れられて、ぐいっと持ち上げられるような、気味の悪い肩凝りに襲われることが多い)が頻繁に反応していたのと、その日会社から戻るとき、辻の神様の前でふと、「女性のようなもの」がついてきた感覚があったのが、気になっていた。

そこで、「見よう」としてみた。怖いので余りやらないのだが、そのときは本当に久しぶりだったのと、自分自身のテンションが「強い」方にあって余裕があったので、やってみた。

・・・壁の隅に、白い服を着た女性のシルエットが、浮かんできた。・・・

「き、気のせいだよな。」

中断した。単なる幻覚だろう。そうに違いない。

目を閉じて毛布をひっかぶった。すると程なく深い眠りに落ち、それ以上の何もなく、ぐっすり眠ることが出来た・・・但し、「うつぶせ」で。

(こうするとある程度は”防御”して眠れる)

翌々日の昼間、同宿の同僚と話しをしていて、余りに欠伸をするので聞くと、昨晩、眠れなかったとのことだった。

理由を尋ねた。

彼は豪胆な男で、全く霊のようなものを信じなかったのだが、何と、昨晩に生まれてはじめてそれらしきものに遭って、大変怖い想いをして、それで眠れなかったのだ、という。

夜中の一時過ぎ、廊下で女のすすり泣く声がした。すると突然風呂場のバスタオルが、大きな音をたてて、

ばたん!

と落ちた。泣き声はその後も断続的に続く。得体の知れぬ雰囲気に、結局一睡もできなかったという。

・・・ふと、その前の晩に遭ったコトを思い出した。そう、その前の晩、自分にもあった。そしてそのとき、頭に浮かんだことがあった。そういえばあの時、心の中で、こう思ったのだ。

「女のことなら、俺より○○のところへ行けよ」

”彼女”は律義にも、翌晩彼のところへ行ったのだ。私は気のせいだ、と思っていたので、彼の話しは衝撃だった。

彼には、怒られた。