第十三夜、はねる花嫁

夜も遅くなり、帰り道を急いでいると、広い通りに突き当たった。昼間は車で混む道だが、今はしずかだ。渡ろうとすると、むこうのほうからこちらへ向かってくるものがある。白い大きなレースの布切れが、妙に緩慢なうごきをしながら、ポーン、ポーンと跳ねつつ、こちらへ向かって来る。不思議に思い目を凝らすと、それはうつろな目をした女性で、足を動かしているふうでもなく、ボロボロの白いドレスを宙にはためかせながら、はねているのだ。ドレスは大きい。ウェディングドレスだ、と気づいた瞬間、背に寒いものが走る。ゆっくりと近づく花嫁は、こちらを無視しているふうだが、その動きと、異常なシチュエイションが、この世のものでないことを悟らせた。私は逃げた。こんなものを見たのはそれっきりである。