怪物7(マ、ヤ行)

マジムン

沖縄では「霊」をマジムン(化け物)という。マジムンはユーリー(幽霊、人間の死者)は含まない。そしてそのほとんどが家畜のマジムンで、さっと人の前を横切る。最近は減っているというが、鳥(トゥイ)マジムンやウシマジムン、アヒルのマジムンなど多種類いる。ミンキラウックワはこれのうちの豚(ワー)マジムンが「進化」したものだろう。敬称のグワーをマジムンの前につけて言うこともある。それは「親しみ」からつけるという。マジムンは出る場所が決まっているそうだ。ある人にだけ見えることもある。犬が尾を垂らすときは、その犬がマジムンを見ておびえた時という。

マンドレイク(マンドラゴラ)

不老不死の妙薬といわれる人の形をした植物の根。引き抜くときに大きな悲鳴をあげるという。錬金術の時代の伝説。

見越し入道

別項の「のびあがり」と似たようなもので、最初は小さかった人がみるみるうちに天をつく大男となる。

水子

流産その他でこの世に生まれ出ることの叶わなかった赤子の霊。恐ろしく祟る場合があるというので、専門の供養寺ができた。

未命

若死にした妻が、後妻に祟り、川の中へひきずりこもうとする。朝鮮の川霊である。

ミルメコレオ

合体型の怪物は洋の東西を問わず沢山あるが、これはライオンと蟻の合体したものだ。

ミンキラウックワ

妖怪だがその出現は伝説にとどまらない。諸星大二郎のマンガに「犬土」というものがあるが、非常によく似ている。「ぶきみな仔豚の群」(今野「日本怪談集」)によれば、奄美の永田川沿いのある地点で、終戦後に「これら」に遭った人々がいる。冬の月夜の小雨まじりの晩に、川沿いを歩いていると、行き先からどこからともなく急に仔豚が出てきた。二人はつかまえようとしたがグーグー鳴きながら走るので捕らえられない。しかも、次々に同じくらいの小さい仔豚が出てきて、その数知れず、みなすばしこくて全く捕まらない。その上、クレゾールの濃いにおいのような、御山羊のにおいのようないやな強い匂いが鼻についてたえられなくなった上、仔豚たちはそこの空き地の薮(アレンメ)の中に入っていってしまった。

次の日行ってみても豚舎は一つもなく、年寄に話すと「お前ら、そこは昔からミンキラウワの出るところじゃ。命が助かってもうけもんだ」と。

これは一例である。この本には他にも多数の目撃例があがっている。ちなみにミンキラウワとはミンが霊、キが耳で、耳無豚のことらしい(大分の部落)。カタキラウワという片耳豚のこともいわれている。

他の小怪と同様に、この小怪も股をくぐって人の命をとろうとする。

ミンゲーマジムン

付喪神のたぐいだが、これは沖縄のもの。ミンゲーとは飯笥とかき、しゃもじのこと。ナビゲーマジムンはしゃもじのお化けのことである。夜中に動き、人のようにさわいだり、牛に化けて人を化かしたりする。しゃもじや杓子は古くなっても捨てるなというのはこんなところからきている。もし捨てると白豚の幽霊になる。それにしても不浄の家畜である豚は各地で化け物にされていて、何か理由がありそうである。

ムーン・ウーマン

アルドロヴァンディによると、この女は卵を産み、抱いて、巨人を孵すのだ。

網貌

稲生物怪録に登場する妖怪。見てのとおりだが、別に悪さはしない。脅かすだけである。同誌、聖アントニウスの誘惑を思わせる。

モケレ・ムベムベ

アフリカの怪物で、その相貌から龍脚目の恐竜の生き残りのように思われる。現地民の話しではじっさいに捕らえて食べたこともあるらしい。

モス・マン

都市伝説に近いものではあるまいか。蛾人間という意味で、ある時期非常に注目された。現代アメリカの怪物である。

幽霊

これも妖怪の一種としておく。逆に妖怪こそが幽霊の変種だと反論されそうだが。

ユウレ風

カマイタチと同じ風の妖異。熊本の宇土町に吹く。おそらく「幽霊風」のことであろうが、とにかく現象自体は「ひだる神」と同じで、突発性の「だるさ」のことである。「悪い風にあたった」というのはここからきているのだろう。赤ん坊の産毛を少し刈り残す風習はこの風に魅入られないためという。

雪女 等

遠野の伝説で有名だが全国各地に伝説が残る。都内にも残っている。醒めた目で見れば、雪そのものの恐怖を擬人化したものにすぎないともいえようが、若い女であったり大入道であったり、年老いた老婆であったりとバリエーションが多く、何らかの怪異が投影されていると考えたくなる。ウブメという妖怪がいるが、子供を抱えた女が吹雪の中に現れ、子供を抱いてくれるよう頼む、なんて複数伝説が混合したようなものもいるという。