怪物図録2

カ行 /

海人

ウミンチュでもアマでもない「海の人」。鰭の有無も定かではなく海に棲み嵐のときなどに姿を見せる。人魚と同一だろう。

餓鬼

餓死したものの霊か、何を食べても何を食べても腹をすかせて人に取りつく。仏教では地獄のものとして扱われることも有る。施餓鬼供養はもと無縁の餓鬼をおさめるものだったらしい。

カクシン(餓鬼)

炎の餓鬼。

影女

「影のような女」という舞台演劇があったが、これは江戸時代のお屋敷に出たという女中や先妻の霊が、障子の影としてだけ姿を顕したことからこの名を貰ったものであるらしい。

ガータロー

河太郎である。即ち河童。この福江のカッパは性質が良いようだ。病の治療法を教えたりする。人間と無二の親友になって、相撲をとったり酒宴をしたりする。いたずら者だが、おとなしく親しみやすいという。親友以外の目には映らない、というところは如何にも妖怪である。

カツギョ

天変地異の前兆で、魚に羽根が生えたものが飛ぶ。珍妙な光景であったことだろう。今でも多摩川中流などで見られる、川魚が無数に飛び跳ねる現象を見た古代中国の人が、比喩的にこの名を付けたものだと考えられる。

カッパ

水怪のひとつ。一般に川の妖異を総称したものといえよう。今でも各地で「カッパ注意」という看板を目にするが教訓妖怪としての役割も持つ。

一般に皿を載せたざんぎり頭の緑の子供+甲羅を付けて手や足指に水掻きがあり、人を水に引きずり込んでは「たましい」を抜く+キュウリ好き、というはっきりしたイメージのせいか、名が売れている。頭の皿があるばあい無いばあいがある。甲羅のない図も残されており、川原に住んだ被差別者のことをこう呼んだという説もなくはない。現代でも3本指で跳ねる小さな人型水棲動物の目撃はしばしばある。洗浄しても落ちない特殊な粘液を垂らすそうだ。

伝説としてのカッパは中国伝来の「水虎」といわれるが定かではない。大昔は少なくとも亀の化け物のような形ではなく、猿のようなものとされていたようだ。水の恐怖、大きなスッポンなどと混同されているものもあるだろう。

ガート・ドッグ

黒犬伝説の類。確かイギリスの凶凶しいケルベロス、火を吹く地獄の犬だったとおもう。オオカミではない。

カトプレバス

頭が重くて自分でも上げられないという化け物。

カバゴン

北極海を航行する日本の船上で、巨大な岩のような生物が水上に浮かぶのを見た者がいる。海坊主のようなナリの化け物は、その姿形からすると絶滅した巨大な海獣「ステラー」の仲間かもしれない、という。いずれにせよ象アザラシの類であることは違いない。

カーバンクル

ドラゴンの頭中にあるといわれる宝石を、なぜか無造作に頭に頂いた小動物。暗示的な様相。

カブキリコゾウ

下総(千葉〜茨城)の山童系妖怪。おかっぱの小僧でおちょんちょんな着物を着、さびしい山道や夜路に出て「水のめ茶のめ」という。むじなの化けたものだともいう。

鎌鼬

肌に鋭利な刃物で切り付けられたような傷が突然現れる。あまりにあざやかで、血すら殆ど出ない。古人はこれを三人組みの見えないモノのせいとした。一人目は人を突き転ばす。二人目はその肌を掻き切り、三人目は丁寧にも血止めを塗る。今ではこれは旋毛風などで瞬間的に生じる「真空」に肌が触れたため起こるものだとされているが、近年それすら根拠の無いものとして、目下正確な理由はわかっていない。私はかつて目の前でぱくりと割れたさまを目にしたが、風すら感じなかったような覚えがある。最近は聞かないが、絶滅したのだろうか・・・

カマルグの怪物

上図は説明をもとに想像した姿である。こんなものが流れ着いてきたとして、われわれはどう解釈し判断したら良いのだ。

カワジョロ(川女郎)

西洋にはバンシーという不吉な声をあげる者がいるが、「警告型」の妖怪というのはとにかく多い。カワジョロは四国は琴平の南あたりにいて、大水が出て堰が切れそうになると、「家が流れるわあー」と、人が泣くように泣く化け物。香川の仲多度津でもしられるというので、出現範囲は広そうだ。直接死をもたらすことはなく、カッパの一種とされることもある。私的にはかつて洪水で溺れ死んだ女のものか、もしくは人柱にされた女のものか、どちらかではないか、と思う。

川天狗

河の上を行く鬼火。不吉の前兆とされる場合も有る。

カンスコロバシ

坂の上から何かを転がして夜道を登る者を驚かす系の妖怪のひとつ。こんな何気ない、実体のない妖怪が日本には多い。

乾蟻子

雲南地方には鉱山が多く、落盤で坑夫が生き埋めになると、死体は10年から100年の間そのままでミイラ化する。これを呼び、妖異の対象とする。

坑夫が地中に入ると、これらにでくわすことがある、と雲南雑志はつたえる。妖者は喜び、寒くて堪らないからとタバコをねだる。そのあと跪いて、連れて出てくれ、とせがむ。ある炭坑主人が7、8体を連れて出たところ、外気に触れるなり服も体躯も液状化し、腐臭激しく、これにあたった者尽く疫病にかかり死んだ。以後これに会って連れてきてしまったら、欺いて持ち上げる縄を断つことにしたという。坑夫の方が少ないとまとわりつかれて放してくれないが、坑夫のほうが多いならみんなでこれを縛って壁にもたれかけさせ、四面を泥土で封じ固めて土の塚をつくりその上に橙の壷を置けば祟らない。

炭坑で死んだ者の化物は日本にもあるが、日本では幽霊・夢幻の類であるのにたいし、こちらは肉体を持ち、まるでゾンビのようだ。キョンシー(きょうし、朽ちない屍体変ずる妖異の総称。漢字が出ないのでひらがなでごめんなさい)もそうだがリアリストの国ならではである。炭坑掘りの暗黒の伝説は古今幾多にのぼる。

旱魃

「きょうし」(朽ちない死体)の変じた獣の一種。出世魚のように姿形、性質を変えていくのは華南の妖異の特徴でもある。

キジムナ

沖縄の森林に棲む赤い小鬼。ガジュマルの精ともいう。じつは同じような小妖怪の伝説は各地にあり、伊豆諸島でも聞かれる。じつは私は昔八丈島で夜、「赤い小人」を見たことがある。人里のど真ん中であったが、キジムナとはこんなものなのか、とおもった。沖縄には年一回少し長めに行く。未だにキジムナは見たことがない。ただ西表では炭坑労働者らしき影や、爆死した漁師の塵のような姿を見た。「ユウレ橋」のあたり、かつて由来のわからぬ風葬地だった近辺でのことである。「夜話」にそのあたりの別件を書いたので興味があればそちらも見てください。あ、キジムナの無邪気さとは無縁になってしまった・・・本土のカッパが日焼けしたんでしょうかね(いーかげんな・・・)!

鬼弾

まあこういうシュミを持つ人の参考文献は限られているもので、知っている人は知っている、知らぬ人は全く知らぬ話しなのだが、中国の水妖で、水中に潜み人を狙う。諸星大二郎さんのマンガでこれを「水中から目にみえぬ弾をはっし人をうつもの」とされているが、そういった様子である。

くだきつね

竹筒(クダ)に入れて飼い、使役する。人に憑くのは「狐憑」と同じ。しかし姿は「甲子夜話(たしか東洋文庫)」図によれば本物の狐と変わらず、大きさが異常に小さいだけのようだが。あとは、イタチに似て毛は少々黒又は赤みがかり、尾は太くて大きいともいう。ネズミくらいの大きさで群れをなすともいう。キツネより小さいこと以外は、話しによってまちまちで、諸々の小動物の総称でもあったようである。ただし、クダキツネの本領はその取り憑く力だ。背景には根深い民間信仰があるらしい。巫女などが飼うがその巫女が死ぬと消える。凡人にはこれを退けることはできない。人糞を食させて殺せるともいう。これを飼う家筋にはしきたりがあり、また財力の増減はこれの現消に依るとも考えられた。

口裂け女

70年代末に中部地区に出現。東京経由で北陸方面へ向かい放浪していったという説がある。「わたしきれい」とマスク姿で子供に問いかけ、きれいというと「これでも」とマスクを取って切り刻まれ、ブスというとぶすりとやられる。口が耳まで裂けているのは整形手術の失敗によるもので、精神を病んだらしい。姉妹がいたともいう。これらが真実となると、描き方によっては哀しい物語にもなりそうだ。こんな人間今や猟奇乱舞のご時勢珍しくも無いし、ここまででは妖怪性は薄い。強いて言えばトイレの妖怪「赤いちゃんちゃんこきせましょか」に似ている、そのくらいか。だが、あとからあとから付け加えられたおかしな性質は、子供の思い付き的なアホらしさを伴っている。襲われたら、「ポマード」と言うと逃げるのだ。あるメーカーのコーヒー飴を投げつけると溶けてしまうのだ。書いていて頭が痛くなる。

クラーケン

有名な大航海時代以降のイカ怪物だが、残る話しの大半はこのラクガキのように、一本の巨大な触手が空にむかって伸びていた、といった茫洋とした話しにすぎないようだ。であれば単なる「竜巻」かもしれない。尤も海の男に竜巻などの自然現象が見抜けないわけはないという説もあるし私の勝手な推測だけれども。イカは大王イカというワイルドカードのような現実の巨大イカが実在しているわけだし、「クラーケン」自体もう認知された現象の複合と解釈してしまってもいいだろう。

グレムリン

映画「グレムリン」のイメージがあるけれども単なる悪戯な妖精である。「悪戯な妖精」って遊ばれたオトコの言い訳みたいな言葉だな。国や地域によって呼び名の変わる妖精の、小さい部族。そういった言い回しが適切だろうか。

黒犬獣

イギリスの大メジャーな妖怪だが、私にはこれこそが土俗神の化身と思えてならない。かつては守護神として奉られていたものが、キリスト教によって追いつめられ、ついに教会に反撃するようになり、いつしか悪魔の化身のように考えられるようになった・・・

黒犬獣は目が異様に光る大きく狂暴な黒毛犬として描かれる。人気無い道路を走って(まるで七不思議の「送り提灯」のように)道案内をするかと思えば、嵐と共にやってきてあらゆるものを薙ぎ倒して走り去る。あるいは閃光と共に消え去る。

黒犬の通る道筋は決まっている、ともいう。日本の「ナメラスジ」のようなものといえよう。恐山へ向かうフユウレイの道(壁に当たって血痕を残す)、人々に災いをもたらす妖精の道、悪魔の道、出雲へむかう神の道、レイ・ライン・・・

そして黒犬は自然現象とその流れ(川や地下水流)とも関係がありそうだ。勿論古い墓地などとも。そして古い道とも。

別項にいつか書こうと思うが、私何故か一回黒犬に片腕を呑まれる夢をみた。がばりと起きた私の目前に、壁の中に逃げ去ろうとする銀色の丸い(水銀のような)塊が見えた。手はすぐに開放されたが、黒い犬というのは何か妖異の象徴的な姿にすぎないのかもしれない。どきどきしながらそんなことを思った。

クロコッタは確か南米だったか、黒犬と同じような狼のような妖異だったとおもう。リュークロコッタというのもいたように思うが忘れた。ごめんなさい。

毛有毛現

ケウケゲンは江戸の著名な妖怪画集に現れるのみで余り他例をきかない。ただ黒い毛の塊、というよりは黒いもやもやしたものが人らしき動きをする、みたいなものをそうよんだようだ。さすれば昼間現れる幽霊が白だと目立たないので黒くなって出たのかも?黒妖は不吉というひともいるから、無邪気な妖怪にみえて、実は結構ヤるのかもしれない・・・「ヤる」って何やねん!!

けさらんぱさらん

黒い毛の塊に対して白い綿毛の塊である。いろいろな姿をとるが多くは牛の玉(いつか夜話のほうに書く)のように「毛の塊」としておっこちていたものをお寺が大事に保管して、おしろいをやると少しずつ成長する。幸運をもたらすものとして寺宝にされている場合が多い。長生きで何代にもわたって伝えられることも有る。ものによって毛質も色も様々。なんにもしない。ゆるゆる成長するだけ。なんかマリモみたいだ。

ケステンガの宇宙人

目撃者のラクガキをもとにラクガキにまとめてみた。シュールだ。東洋人のイメージだ。西欧文化の人々は宇宙人に東洋人の得体の知れなさを重ねあわせることがあるが、この姿なんかもなんか、なんかだ。「なんか」って何やねん!

ケルベロス

地獄の門の巨大な番犬で頭がみっつあり、業火を吐く。あえてかわいくかいてみた。ってこれラクガキのレベルにもたっしてねーずら!

ケンタウルス

ギリシアにつたわる伝説的種族だが騎馬民族の狩りの姿を誤解してうつしたという説がある。シブサワタツヒコ先生の本でよんだ。半身半獣の怪物でもとくに有名である。

コウ

「きょうし(朽ち果てない遺体)」が「旱魃」に変じ、さらに変じたものが「コウ」であるという。エンズイエンという人の話しである。仏菩薩の騎乗する獅子のような獣で、神通力をもち、口から火を吐き、よく龍と闘う。ゆえに仏がこれに騎して鎮座するのだ、と。みんなもがんばろう。しんだあと。どうやってがんばるのだ。

コウコンシシャ

ある人がいうには閻魔と東獄の天子は毎日男女あわせて十万八千の使者を放ち方々で医者をさせている。その者を称して匂魂使者というそうである。「リョウサイシイ」”岳神”より。これは江戸時代に流行った庚申信仰に通じる考え方だ。悪事を告げ口する魔物のイメージはここでは医者という聖職によって少々薄められている。

甲府に顕れた宇宙人

身長約120センチのこのシワだらけの男の出現は、おそらく日本ではじめての「宇宙人遭遇事件」だろう。徳川家康が駿府の城で天地を指差す肉の塊のような妖異にでくわした話しがあるが、これは天下人の神格化のための「エピソード」かもしれないから、まあ「日本初の宇宙人」(カゼッタは除く)といっていいのではないか。日本初の宇宙人て意味わからんという人はほっといて、少年(今は中年)ふたりとその家族にかなりのインパクトを与えたこの異物は、以後たびたび少年らの前に姿をあらわすようになったという。1975年のことであった。

こっくりさん

日本のこっくりさん(あて字で3種の動物名を入れる場合もあるが、これは余り根拠がないようだ)と西洋のヴィジャ盤は良く比較されるが、本質的なところ、つまりその意図において全く違っている。前者は本来、霊性を備えた妖異(獣や精霊)を呼び出すものとされる。後者は基本的に魔術の世界のもので、魔法陣に由来する。人霊との交信機とされ、いわば西欧で培われてきた「心霊研究」の小道具へと進化していったものである。現代では共に占いの小道具として親しまれる。両方とも不浄な危険物を呼び出すものとして忌まれる立場にある。

こなきじじい

これが類似品が多い。黒犬の話しを書いたが、ドイツでは黒犬を背負ってどんどん重くなる話しがある。石を抱えていた、狐に化かされた系の話しに変異している場合も有る。たいてい命にかかわる。老人と赤子に感じられる共通性は輪廻状の感覚に支えられているが、昔姥捨てのようなことがされていた時代、子供の姿に帰って再び拾われようとする救われない老いた魂の妖異かもしれない。

ゴルゴン

ポセイドンベタボレの絶世の美女だったとすることもあるらしい。蛇の髪はその性格を象徴的に示したものかもしれないし、髪型を描いたものかもしれない。あれメデューサとごっちゃになった。てなわけで(逃げるんかい!)

逆柱

カ行でないのに何故?答えはかんたん、たまたま。大黒柱に天地を逆にした木を使うと、いろいろと変異を起こして悪いことが続くという。日本の妖異であるが、ただ、寺社のような大きな建築にさいして、わざと逆さに柱を立てたりすることもあった。あらゆるものには「抜け」が必要で、わざと一部常道からはずす、これは中国伝来の風水の考え方だ。沖縄には今もこの考え方が残る。完璧に合理的で、「遊び」がない場合、一歩誤ると大変なことになる、というのは逆に理知的な中国人らしい発想だ。

以上「カ行」

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